2012.10.17 毛芯の大切さ


美しい服を作るために
Piquer toile;八刺し
こちらの写真一体なんだろう?と思われるかもしれません。漢字のハが無数に続いていることからハ刺し(はざし)フランス語ではpiquer toileと言います。胸の立体を出す為に、無数の八の形で手で縫って行き毛芯を作ります。

ここで毛芯についてちょっと説明を。
ポケットがついている側を前身頃といいますが、その生地と裏地の間に、紳士服では毛芯と呼ばれるものを入れます。スーツを着用することで、どこか男性的に見えたり、また胸のドレープが美しかったり、そして胸回りの立体感が綺麗だったり…というのは全てのこれら内部構造である毛芯作りにかかっています。
ほぼ全ての?既製服メーカーや一部のテーラーではこの毛芯、すでに工場などで作られている出来上がった芯=出来芯を使用します。
パリでは、ほぼ全てのテーラーで、芯地(毛芯のこと)こそがスーツの命と考えておりますので、私達はこのように手で作ります。下の写真は膝の上に毛芯をのせて八刺しをしているところ。

出来芯と手で作った芯…それでは一体何が違うかといいますとそこには大きな違いがあると私は思っています。出来芯は、すでに大きなSMLといったサイズで作られており、そこにお客様のサイズを合わせて行き、この方は胸回りが強いな…という場合には胸のボリュームを増し、と言ったように出来芯の一部をバラして細工します。多くの方に合うように、基本胸回りのボリュームはほとんど作られていないのが一般的だと思います。

対して作った芯というのは、全てがお客様ありきとなります。私の場合でいいますと、採寸したサイズからパターンと呼ばれる型紙をまず作成します。この型紙上には、お客様の体型だけでなく、その方の好み、ドレープ、立体的になるように各部分で色々な工夫…などなど、一言では言い切れない無数のことが詰まっています。
その型紙をもとに生地を裁断して行き、その後切られた生地を使って芯を切って作って行きます。私は仮にお客様がトレーニングをしていて胸の筋肉がある方の場合、ピッタリと沿うように毛芯を胸の形になるよう作ります。同様にお腹まわりがある方にはそのように作ります。下の写真は毛芯を反対側から見たところ。裏側まできっちりとハ刺しがされているのが分かります。

ご存知のように男性の服、とくにクラッシックなスーツについては女性の服と違い、デザイン的に切り替え線をいれたりすることが出来ません。その為、ぱっと見にはわからない内部の毛芯上に、そうしたことを表現します。それはダーツを取る代わりに、アイロンによる伸ばし。縮めといった作業を経て、美しい立体を作って行きます。このハ刺しという仕事は美しいドレープを作るのに必須の仕事。そうして毛芯が完成したら5kgの重たいアイロンでシッカリとプレスして行きます。ここで時間をかけて立体を作る事が後々とても大切になってきます。

私達にとってのオーダーメイドとは、ただ肩幅や袖の長さといった各部分のサイズにあった服を作るのではなく、その方の身体の丸みや求めるドレープもしっかりと表現することになります。各部分の仕事をしっかりとこなすことで、最終的に質の高いスーツが出来上がると思っています。


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