2012.04.18


パリの日常から

今日は退社後初めてpôle emploieにいって来た。pôle emploieとは、日本でいうところのハローワークだろう。独立した今、あえて求職する必要は全くないのだが、ここはフランス。自分の現状をその都度しっかり報告することが非常に大切になってくる。ここに登録しておくことでフランスにおける会社の仕組み等学べることも多々あるのだ。

ランデブーをとったフランス人のマダムは見たところ50代中盤にさしかかったところ。身長も大きくゆうに175cmはあるかと思われる。ブロンドの髪と射抜くような強い目に真赤な縁の眼鏡をかけていて、その年のフランス人女性らしく恰幅も非常に良く、ゆっさゆっさとその身体を動かしている。話しながら相手にドンドン圧力をかけてくる、いわゆる一般的なフランス人女性。

今日はただ登録だけだったので簡単にすむのかなと考えていたら、朝一番なのにコンピューターの調子が悪い、アプリケーションが全く動かない、なんてついてない日なんだ、とネガティブ口調を連発。
舌打ちをチッチ、チッチいっているし、放って置いたら渡した必要書類をビリビリと破いたり、私の大切な滞在許可証もどこかに放り投げそうなほど機嫌が悪いようだ。まあまあ、こんな日もあるよ。一体パソコンのどこが調子悪いの?大丈夫、ゆっくり行こうよ。など、そのうちわたしの方がマダムの機嫌をとるように…。とにかく今日登録してもらわないことには、また再度来なくてはいけないからだ。そんな時間もないし、とにかくしっかり終わらせないと。
日本では本来問い合わせに来た人間(客)が職員の気を揉むなんて、まず無いよな~なんて考えて心の中で笑っていたら、突然マダムの機嫌が良くなった。

どうやら私の職業を記入していたら、テーラーだとわかったらしい。
そこで少しずつ話をして行くうちに、さっきまでの曇り顔はどこへやら。
笑顔バッチリで身を乗り出して話し始め、調子が悪いはずのコンピューターもサクサク動く。『あなた、自分の手から何かを生み出しているのよ!?それわかってる、素晴らしいことじゃない!?私なんてこうして働いてるけど何にも生み出してないし、全くほとんど意味のないことをやってるだけなのよ。(ガックリのジェスチャー)あなたの仕事って、まるで絵描きが絵を書くように…(遠い目)家具職人が木を削って作るように…自分たちの手から何かを作ってるってことじゃない!』
『そんな素晴らしいことって、多くの人には出来ないことなのよ!その素晴らしさわかってる??そんなことが他の多くの人よりもずっと簡単に出来るなんて貴方本当ラッキーだと思うわ』
『もうワタシ、貴方の記入欄に『彼は金の腕を持っている』って書いちゃう。書いて良いわよね?いや、書くべきよ、うんうん書かないと。金の腕。書いちゃった。っと』

フランス人は基本的に職人の手仕事が大好きなのだ。
だから、何かの機会に自分がテーラーであると言って、多くの場合好感を持たれることが多いが、こんなに機嫌が変わるフランス人も珍しい。
そんなこんなで、今日の登録は無事終了~。
『数週間後にフランスにおいての起業、またその複雑な種類の説明等のセミナーをするからしっかり参加してね。でもまワタシ貴方のことは全く心配してないから☆
だって金の腕を持っているんだから。あ~全く素晴らしいことだわ。今日着ているそのブレザーだって貴方が作ったんでしょう?そうよね、うんうん。貴方は全く問題無いわetc…』

機嫌が途中から急に良くなったので、大事な登録は無事終了したし良かったのだが、やはりフランス人は人間臭いなあ~と感じた。
朝一番で物凄い不機嫌で書類をビリビリと破りそうな勢いだったと思いきや、急に大きな猫のようにゴロゴロとし、褒めちぎり上機嫌。

全く、日本ではこんなことまずおきないだろうな。と思いつつ家路についた。
事務仕事であっても、まず人間ありきのこの国は、担当者の好みやその日の機嫌で物事が大きく左右する。そのため場合によっては酷い目に合うが、反面無機質とは無縁である。こうした日常が普通になると日本に戻った時なんとも冷たく、つまらない街だと感じてしまう。
フランスでは3日同じパン屋に行けば、世間話をしたりちょっとしたジョークをいったりするのが当たり前だが、日本では同じコンビニに二年間通ったって店員さんと仲良くなれるかわからない。

どっちも一長一短であるけれど…。


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