アトリエから見たパリ第1回 パリのテーラーリングについて・前編


パリのテーラーリングのスタイルを一言で表すならば、イタリアンスタイルをさらに美しく昇華させ、よりエレガントにしたものだと思います。そしてそのスタイルを創り出した人物が、Monsieur CAMPS(ムッシュウカンプス)です。

一回目のコラム、まずはこの Monsieur Campsを中心としたパリのタイユールの流れに触れたいと思います。

かつて、イタリア、イギリスに今よりもっと数多くの仕立て屋が存在していたようにパリにも多くのTailleur(タイユール=テーラー)がありました。ただその仕事のクオリティーは、お客様の体型を見たままに表現し仕立てる、いわば仮縫いで調整していくクラッシックなスタイルでした。

1940年代から50年代にかけてパリにも数多くのテーラー養成学校(おもにcoupeを学ぶ学校)があり、私に仕立てのComme il faut(あるべき方法)を教えてくれた師匠達も仕事が終わった後、それぞれのテーラー学校にcoupeを習いに行ったそうです。その当時有名だった学校名を挙げるとまず Ladeveze Darroux、Ecole Christiani そしてEcole Napolitano の3校でしょう。

1つ目の DARROUX はフランス式のカッティング養成学校で現在は Academie Internationale de Coupe de Paris という名前でパリのモード界に数多くのデザイナー・モデリストを送り込んでいます1960年代の学校案内を見るとほぼ全ての生徒がスーツを着て直裁ち(生地の上にチョークで直接パターンをひくこと)の練習をしており、メンズを基礎としたトップモデリスト養成学校であるかがわかります。 Ecole Christiani と Napolitano はイタリア式のカッティングで世界中から多くのテーラーが門を叩きましたが現在はもうありません。

そんな中、ある一人のMaitre Tailleur Joseph CAMPSがメゾンカンプスを立ち上げ、テーラーリングとしては画期的な、非常にレベルの高いカッティングを打ち出しました。彼の方法は世界中の数あるcoupe(カッティング)の中でも、非常に独創的な優れたものでした。

そもそもテーラーの仕事とは、まず第一にお客様の体型にぴったりとあった洋服をつくることだと思いますが、見たままをただぴったりと合わせてしまうと綺麗な服が生まれない、むしろその方の体型の要所要所の目立ったポイントに目がいってしまうようになります。

というのも人間というのは、顔を例えて言いますとまず左右対称の方は存在しないように、身体も同じことで、右利きの方は右肩が(多くの場合)最低5ミリ、多い方だと20ミリ近く下がり右腰が反対側に比べ強く張ります。もちろん過去にスポーツをしていたとか、普段から片足にだけ体重をかけて立っているということでその下がり量は多くなります。ですからあまりに身体にぴったりと合わせて作ってしまうと、体型のポイントにばかり目がいくようになり、右肩下がりがより目立ってしまいます。

そしてこれが一番重要なことなのですが、多くの場合、身体に合わせようとすると、自身のハウススタイルというものが無くなってしまいがちです。これは一部のテーラーでは「あまりにお客様の身体に合わせて作るのは良くない」と言われるほど、多くのテーラーにとって ”ハウススタイルをしっかりとキープしながらお客様の身体にも完璧に合わせる” ということは非常に頭の痛い問題だと思われているようです。

そのなかでカンプス氏が創り上げたのは彼なりの人間工学理論により、人間の身体の肩下がり量、ゆがみなどを仮縫いの前段階のパターン上でしっかりと作り上げるというものでした。これはHaute couture femmeのドレスを作る際、モデルの体型にぴったりとmoulage(立体裁断)していくのと同様の考え方で、お客様の体のまわりに、まるで一枚の布をゆとりで包み込んでいくかのように、立体裁断の考えを紳士服に非常に上手く取り入れた独自の手法といえます。


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