アトリエから見たパリ第8回 Toiles d’essayages

September 1st, 2011
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皆さんこんにちは。コラム第8回目はEleves de CAMPSの強さの秘密でもある、Toiles d’essayages(トワール・デッセイヤージュ)について書いてみようと思います。
トワル・デッセイヤージュ。聞き慣れない言葉かと思いますが、これは採寸時に採寸と同時に行う一度目の仮縫いと考えられています。 私の採寸をご覧になられた方はご存知かと思いますが、私は採寸後タテ・ヨコにラインが入った、簡易的に組上げた長めのジレ(ベスト)のような袖なし上着をお客様に着て頂きます。パッと見た印象は『ゲージ服』のように見えるかも知れませんが実質は違います。これこそがMonsieur CAMPSが50年代にcreationしたMaison CAMPSの最も大切な部分と言えるのです。

通常どのテーラーも、それぞれハウススタイルというものを持っております。テーラードというものはよく世間一般で言われているように、それほどデザインが変化するものではありません。その為、”まずデザインありき”のハウススタイル、ではなくオーナーカッターが良しとする最上のテクニックの結晶が、そのお店のカッティングになり、しいてはハウススタイルへと繋がっていきます。つまり彼らの洋服哲学を100%服に詰め込んだものです。その為それぞれのテーラーでスタイルは異なり、お客様は自分の好みにあったテーラーへ行くようになります。

現在のフレンチテーラーリングのスタイルを作ったとも言われるMaison CAMPS。そしてMonsieur CAMPSが最も心血を注いで作り上げた、彼の洋服哲学の核がこのToiles d’essayagesなのです。 技術的な事ですので、出来るだけ判りやすくお伝えしたいと思いますが、服作り、ことにTailleur sur mesure(オーダーメイドの重衣料)において最も大切な事は、お客様の体型に合わせてお仕立てする事です。これは最も基本的なことであり、また一番難しいことでもあります。なぜなら「体型に合わせる」と一言で言いましても、どこをどのように合わせるのか?という疑問があると思いますし、また100%お客様の体型に合わせて仕立てたものが全て美しいとも限らないからです。 まず人間の身体は左右対称と思われがちですが、スポーツをしていたり、普段から片足に体重をかけて立つ癖があったり、また、若干猫背気味・反り身気味等の要因で人の身体は少しずつ左右非対称に変化していきます。例えば右利きの方は右肩が最低5ミリから、多い方だと20ミリ左に比べて下がり、同時に右腰が(左腰に比べて)強く張りますので、上着でも左右対称に作る事は少ないですし、パンタロンに関して言えば脇部分の長さが左右異なる事は一般的です。これが女性の場合ですと、妊娠中から出産時まで骨盤が酷使されるますので、右利きでも左腰が強くなり、またさらに前方に歪むこともあります。

加えて人間の身体は当然ながら”立体”で出来ていますので、採寸時にも立体的に体型をとらえていく事が重要になります。例えば人の身体を正面から見れば、お腹が出ている人でも、出ていない人でも、また胸の筋肉が発達している人も、していない人も、身体の中心は基本的に直線に見えます。 ただこれを側面から見てみると、結果は全く異なります。身体の立体に沿って当然曲線になります。お腹が出ているのか否か・それはどれくらい出ているのか、また、胸の筋肉があるか否か・どの部分がどのくらいあるのか等がはっきりと出てきます。 “人の身体の中心線は側面から見た時、直線ではない”ということ、これがpret-a-porter(既製品)を作っている方とsur mesure(オーダーメイド)に関わっている人間の大きな考え方の違いと言えるでしょう。私達 sur mesureの人間はここが考えのベースになっていますが、既製品の方々は前中心は必ず一直線という考えが強いため、何度説明しても伝わらない事が私が勤務しているスマルトでも起きます。

また一概に胸が強く張っている。といっても『それではどこの部分が強く張っているの??』ということです。胸の中心部分なのか、女性の胸のように、突起しているのか。またはボディビルダー特有の胸の脇側が強いのか・・・奥が深いですね。このToiles d’essayagesの特徴は、そういった人の体型をmoulage (立体裁断)としてとらえられるということなのです。

TVや雑誌等でパリのオートクチュールのドレス作りをご覧になられたことがあるでしょうか。パリコレクションの映像ではステージ上を颯爽と歩くトップモデルの印象が強いかと思いますが、実際のオートクチュールの対象は9頭身のトップモデルではなく、お客様である一般人の体型です。そうしたドレスを作る際、mannequin(マヌカン=人台)と呼ばれるボディにお客様の体型を作っていきます。つまり、ボディに対して『こちらのお客様は胸が大きいから、ワタを巻き付けブラジャーをつけて・・』『腰がかなり張っているから腰全体にワタを巻こう』『右の鎖骨がくぼんでるから左側にもっと高さを付けよう』「怒り肩だから肩先にもっと肉付けをしよう』と言った具合に、すこしずつボディ自体をお客様の体型そっくりに変化させます。
そして『これでOK』になってから布を巻き付けてピン打ち・・といったいわゆる”立体裁断”をしていきます。

Monsieur Campsが創り上げたToiles d’essayagesは紳士服の立体裁断に他なりません。私がスマルトのアトリエでよく口にするのは『こちらの方は胸が張っているよね、じゃあどの部分がはっているの?中心、脇側、それとも鎖骨部分の下からずっとなの?』「(パンタロン作る際)右腰が長いって、それはEntrejambe (内脇)がということ?それともLongueur exterieur (外脇)もということ?』『お腹が出ているって、それは右側、左側どちらに傾いているの?』と言った事です。正直ここまでやっていると、もうテーラーじゃなくてオートクチュールだと言えると思います。

パリの仕立てが他国のものよりより構築的に見えたとしたら、それはこういったmoulage(立体裁断)によるからかも知れません。こうした理由から、パリのカッティングは表現出来る幅が深いと思います。仮にポケットの形を変えようと、ボタン数を変えようと、ハウススタイルというのは揺らぎません。ディティールはあくまでディティールであって、ハウススタイルが揺らぐことがないからこそ、monsieur SMALTO は創業から春夏・秋冬とオートクチュールのコレクションを発表し続けられるのでしょう。それこそがまさにパリのカッティングのクオリティの高さと言えます。

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